交通事故コラムcolumn

  • 2020.02.06

手首の後遺障害にはどんなものがある?認定される等級や認定のポイント

 交通事故で転倒時に手をついたときなどに,手首周辺を怪我してしまうことはよくあります。手首は血流の悪い部位が多く骨がくっつくのに時間がかかりやすいほか,神経の損傷で麻痺も生じる可能性があり,治療によっても痛みや痺れ,動かしにくさが残ってしまうことがあります。残存した後遺症の程度によっては,後遺障害として認定されて,慰謝料や逸失利益の賠償を受けられるかもしれません。ここでは,手首周辺の怪我について,後遺障害認定の基準や慰謝料の相場などについて弁護士がご説明いたします。

 



目次

1 手首の構造

2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

(1)橈骨遠位端骨折/尺骨遠位端骨折

(2)舟状骨骨折

(3)尺骨神経麻痺/橈骨神経麻痺/正中神経麻痺

(4)TFCC損傷

(5)上腕神経叢麻痺

3 手首の後遺障害等級

(1)痛みが残った場合

(2)関節が動きにくくなった場合

 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

(3)関節が異常に動くようになった場合

4 まとめ



本文

1 手首の構造

 手首の関節(手関節といいます)は,前腕側の骨である尺骨及び橈骨と,手指側の骨である手根骨と呼ばれる8つの骨(豆状骨,三角骨,月状骨,舟状骨,大菱形骨,小菱形骨,有頭骨,有鉤骨)で構成されています。細かくみると手関節は,橈骨と舟状骨・月状骨・三角骨で構成される橈骨手根関節,手根骨から構成される手根間関節,橈骨と尺骨が接する遠位橈尺関節,尺骨(尺骨は手根骨と接しておらず,尺骨と手根骨の間にはTFCCと呼ばれる軟部組織が存在します。)の総称です。手のひら側と甲の側それぞれに靱帯が存在し,手関節の運動機能に重要な役割を果たしています。
 また,腕には脊髄から伸びる腕神経叢という神経群に由来する正中神経,尺骨神経,橈骨神経という径の大きな神経が通っていますが,これらの神経の損傷による影響が手首に現れることもあります。



2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

 以下では,手首に関する怪我で,後遺障害等級が認定されやすい傷病について,その概要をご説明いたします。



(1)橈骨遠位端骨折/尺骨遠位端骨折

 橈骨や尺骨の遠位端(体の中心からみて遠い側の端のことです)で骨折すると,骨癒合の手関節に近い部位であることから,手首に痛みや可動域制限が残ることがあります。橈骨や尺骨のような長く大きな骨は長管骨と呼ばれますが,長管骨は一般的に近位端(体の中心に近い側の端)や遠位端で骨折すると骨癒合に時間がかかり,後遺症を残しやすいです。
 痛みや可動域制限の程度によっては後遺障害と認定されます。



(2)舟状骨骨折

 舟状骨とは手根骨のうち橈骨と接しており親指の付け根の位置にある骨です。後ろ向きに転倒し手をついたときに骨折しやすいようです。親指の列にある骨なので45°傾いておりレントゲンで見えにくく,受傷初期の症状が比較的軽いことから見逃されやすい骨折です。しかし,舟状骨は血液の流れが悪く血行障害を起こしやすく,骨癒合しにくいため,早期に適切な処置を施さないと偽関節(骨が癒合せず関節でないのに可動性を有する状態)の状態になったり,痛みや可動域制限が残ってしまうこともあります。
 痛み,可動域制限の程度によっては後遺障害と認定されます。なお,舟状骨に偽関節が残っても基本的に硬性補装具による固定が必要になることはないため,偽関節は後遺障害とは認められません。



(3)尺骨神経麻痺/橈骨神経麻痺/正中神経麻痺

 尺骨神経,橈骨神経,正中神経とは腕神経叢という神経群に由来する径の大きな神経で,腕の骨折や切創,肘の変形などにより損傷すると,手首や手指に麻痺が生じることがあります。手首に症状が出ると,屈曲や伸展の運動に支障が生じます。
 麻痺により可動域が制限されると,程度によっては後遺障害と認定されます。



(4)TFCC損傷

 TFCCとは,正式名を三角繊維軟骨複合体といい,尺骨と手根骨の間に位置します。尺骨三角骨靱帯,尺骨月状骨靱帯,掌側橈尺靱帯,背側橈尺靱帯,関節円板,尺側側副靱帯,三角靱帯から構成され,それぞれが骨同士をつなぎ止めて手首の安定性を保っていたり,ベアリングの役割をして関節を滑らかに動かしたり,衝撃を吸収する役割を担っています。構造からして負荷がかかりやすそうな部位ですね。
 TFCCは転倒して手をついたときに損傷しやすく,損傷してしまうと常時痛みがあったり,小指側に手首を曲げると痛みが生じたり,手首を動かした際にクリック音を伴う痛みを生じることがあります。特に,タオル絞りやドアノブの開閉といったひねりの運動の際に疼痛が生じる場合はTFCC損傷が疑われます。診断当初は捻挫等と診断されることもあり,発見が遅れやすく,そのため治療も長期化しやすい傷病です。
 骨ではないためレントゲンでは確認できず,MRI検査や関節造影検査により診断されます。もっとも,MRI等でもTFCC損傷を読み取ることは難しく,適切な等級認定を受けるためには専門医に画像解析を依頼する必要が生じることもあります。固定による保存療法によることが多いですが,症状が重い場合は,関節鏡視下手術や直視下手術によりTFCCの切除,縫合,再建などがなされます。
 TFCC損傷により痛みや可動域制限が残った場合,程度によっては後遺障害と認定されます。



(5)上腕神経叢麻痺

 上腕神経叢麻痺は,頸椎の末梢神経,神経根を損傷することにより生じるものですが,手首に症状が現れることがあります。上腕神経叢とは,頚髄から伸びている5本の神経が複雑に交差している構造を指します。このうち,手首の運動を支配しているのはC7頚髄神経です。
 損傷の態様としては,脊髄から神経根が引き抜かれてしまった場合や,神経が断裂した場合,軸索(神経の興奮の伝達を担う神経細胞の突起)が損傷した場合などがあり得ます。C7頚髄神経を損傷すると,手首が麻痺して屈曲・伸展の動きができなくなります。通常,C7頚髄神経を損傷するときは肩の運動を支配するC5頚髄神経,肘の運動を支配するC6頚髄神経も損傷しており,肩や肘にも麻痺が生じています。軸索の損傷にとどまる場合は自然治癒するため後遺障害にはなりませんが,神経根の引き抜きや神経の断裂が生じた場合には麻痺が残存し,後遺障害と認められることがあります。
 自然回復がある程度期待できる場合は,理学療法や内服治療が中心となりますが,自然回復が期待できない場合は,上腕神経叢を展開して再建する神経移植術,肋間神経や副神経の移行術,神経の回復が望めない場合には大胸筋や広背筋の移行術といった手術が行われることもあります。
 骨折や脱臼に比べると,一般に神経の損傷は立証が難しいですが,神経根引き抜きの場合はCTミエログラフィー検査で比較的容易に立証が可能で,神経の断裂の場合も神経根造影検査や自律神経機能検査,針筋電図検査などの各種検査で立証することが可能です。



3 手首の後遺障害等級

 後遺障害等級は重い方から1級~14級に区分されています。もっとも,後遺障害等級は認定されること自体のハードルが高く,14級であっても決して症状が軽いというわけでもありません。
 具体的な症状により変動することはあるものの,等級ごとに慰謝料の金額や労働能力喪失率が目安として決められています。慰謝料は,自賠責基準,任意保険基準,裁判基準の3つがあり,弁護士に依頼することで最も高額となる裁判基準をベースとすることができるようになります。労働能力喪失率とは,後遺障害によって労働能力が制限されることにより将来の収入が減ってしまうという損害(逸失利益といいます。)を算定する際に用いる数値で,どの程度の労働能力が失われたのかを割合で示すものになります。
 以下では,残存した症状ごとに何級が認定され得るかをみていきます。



(1)痛みが残った場合

 治療によっても痛みが残ってしまった場合は,神経症状が残ったということで,下記の後遺障害が認定される可能性があります。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 14級9号 局部に神経症状を残すもの  32万円  40万円  110万円  5%
 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%


 14級と12級の後遺障害の内容はよく似ていますね。
 痛み(神経症状)の後遺症が12級と認定されるのは,レントゲン写真・CT写真・脳波検査・脳血管写・気脳写・筋電図等の検査によって医学的に証明できる場合とされています。
 これに対し,14級と認定されるのは,医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応医学的に説明のつくものであり、賠償性神経症や故意に誇張された訴えではないと判断される場合とされています。
 後遺障害は治療によっても治らなかった症状ですから,後遺障害がその後よくなるということは想定されず,基本的に労働能力は就労可能年数(原則67歳までの期間)の間ずっと失われるものとして逸失利益が計算されます。しかし,神経症状に関する後遺障害については,経験則上,疼痛への馴化(痛みに慣れること)や経年による軽快があり得ることなどを理由に労働能力喪失期間が制限されやすい傾向にあります。具体的には14級9号については5年以内,12級13号については10年以内に制限される傾向にあります。もっとも,骨折による変形癒合が疼痛の原因となっていると考えられる場合など,器質的な原因が認められる場合には,より長期の喪失期間が認められやすいです。



(2)関節が動きにくくなった場合

 リハビリをしても関節の動きが十分に回復しない場合があります。そのような場合,関節可動域に制限が生じたということで,下記の後遺障害と認定される可能性があります(6級,5級,1級は肩関節や肘関節にも可動域制限を要します。)。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの  187万円  200万円  550万円  27%
 8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの  324万円  400万円  830万円  45%
 6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの  498万円  600万円  1180万円  67%
 5級6号 1上肢の用を廃したもの  599万円  700万円  1400万円  79%
 1級4号 両上肢の用を廃したもの  1100万円  1300万円  2800万円  100%


 手関節の機能障害は,怪我をしていない側(健側といいます)の可動域の合計値と比較してどの程度可動域が制限されているかにより等級が定まります。
 両側に可動域制限が生じた場合など,健側と比較するのが適当でない場合は参考可動域と比較して可動域制限の程度が判断されます。また,原則として他動値(外的な力で動かせる範囲)を用いますが,麻痺や痛みによる可動域制限の場合は外的な力では動かせてしまい適当でないため自動値(自力で動かせる範囲)を用います。
 可動域は,角度計を用いて日整会方式という方式により測定することが通常ですが,整形外科医によっては適切な方法によらず測定されてしまうこともあるので,注意が必要です。
 手首の参考可動域は下記のとおりです。参考可動域の3/4,1/2,1/10にあたる値も便宜上記載しています。基本的には主要運動の可動域で等級を判断しますが,主要運動の制限が等級評価の基準値をわずかに上回る(10級該当性では10°,12級該当性では5°)場合に,参考運動の1つについて可動域が3/4または1/2以下に制限されていれば上位の等級が認定されます。なお,可動域が1/10に制限された場合は参考可動域による繰り上げはないため下記表では省略しています。可動域は5度きざみで計測するため,それぞれ繰り上げされた数値となっています。



主要運動 参考運動
 屈曲  伸展  合計  撓屈  尺屈
 参考可動域  70°  90°  160°  25°  55°
 3/4  55°  70°  125°  20°  45°
 1/2  35°  45°  80°  15°  30°
 1/10  10°  10°  20°  -


 以下では,上の表を参照しながらどの程度の制限があれば何級が認定されるのかを具体的にみていきます。





 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 「関節の機能に障害を残す」とは,主要運動の可動域の合計値が4分の3以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では125°以下となっていれば該当するということですね。仮に130°までの制限にとどまったとしても,参考運動で3/4の制限が認められれば12級6号が認定されることになります。



 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 「関節の機能に著しい障害を残す」とは,主要運動の可動域の合計値が2分の1以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では80°以下となっていれば該当するということですね。仮に90°までの制限にとどまったとしても,参考運動で1/2の制限が認められれば10級10号が認定されることになります。



 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 「関節の用を廃した」とは,①関節の強直またはこれに近い状態にあるもの,②神経麻痺等により自動運動不能またはこれに近い状態であるもの,③人工関節を挿入してもなお可動域が2分の1に制限されたもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 関節可動域は他動運動(外的な力で動かすこと)により測定するのが原則ですが,麻痺による可動域制限の場合は適当ではないので,自動運動(自力で動かすこと)により測定します。
 強直とは全く動かないことで,強直に近い状態とは可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。自動運動不能とは自力では全く動かせないことで,自動運動不能に近い状態というのは自力で動かせる可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。参考可動域の1/10については上の表でご確認ください。



 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

 「上肢の用を廃したもの」とは,①3大関節(肩・ひじ・手首)のすべてが全く可動しないか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,②3大関節が完全に麻痺したか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 なお,「手指の全部の用を廃した」とは,①手指の末節骨の半分以上を失ったもの,②中手指節関節もしくは近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すもの,のいずれかに当たる場合をいいます。



(3)関節が異常に動くようになった場合

 関節の安定性が損なわれることで,可動域制限とは逆に,本来動かない方向に可動するようになったり,本来以上に可動するようになることがあります。このような異常な関節運動が生じている関節を動揺関節といいます。
 動揺関節の存在は診断書の記載のみでは立証不十分で,XPストレス撮影(負荷をかけて亜脱臼状態になった状態を撮影)が必要になります。
 労働に多少の支障があっても硬性補装具の装着を常時必要としない場合は12級,労働に支障があり常時硬性補装具の装着を必要とする場合は10級とそれぞれ認定されます。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの  187万円  200万円  550万円  27%


4 まとめ

 一口に手首の後遺障害といっても,傷病名,症状,等級はさまざまです。等級認定は細かく基準化されていますが,等級認定の基準に詳しい医師はほとんどいないため,後遺障害診断書の作成を漫然と医師任せにしてしまうと不十分な内容となり,症状に見合う後遺障害等級を獲得できないおそれがあります。
 また,慰謝料は自賠責基準,任意保険基準,裁判基準のなかで裁判基準が突出して高額ですが,裁判基準をベースに加害者の保険会社と交渉するためには弁護士に依頼する必要があります。逸失利益についても,喪失率が争いになりやすく,十分な知識と交渉力がなければ十分な賠償を受けられません。
 このように,後遺障害等級認定の可能性がある事案では,後遺障害に精通した交渉力の強い弁護士に依頼するメリットが非常に大きいといえます。


 H&パートナーズ法律事務所には,後遺障害等級申請や交渉についての経験が豊富な弁護士が多数所属しております。ご依頼者様から丁寧にお話を伺いながら交渉を進めて参りますので,ご安心して無料相談にお越しください。なお,当事務所は兵庫県川西市,梅田,高槻に拠点がありますが,遠方の方はもちろん,関西近辺でも,ご来所が難しい方には出張相談を行います。その点もお気軽にお問い合わせください。

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