交通事故コラムcolumn

  • 2020.01.24

腕の後遺障害にはどんなものがある?認定される等級や認定のポイント

 交通事故で転倒した際などに腕の骨が折れてしまったり,肘を脱臼してしまうことがあります。痛みが残ったり,骨がうまくくっつかずに偽関節と呼ばれる状態となったり,肘の動かせる範囲が狭くなってしまったりすると,後遺障害の認定を受けられる可能性があります。後遺障害と認定されると,受け取れる賠償額が大幅に増えますので,非常に重要です。ここでは,後遺障害と認定される基準や,等級ごとの慰謝料額などについて,弁護士がご説明いたします。

 



目次

1 腕の構造

2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

(1)上腕骨骨折

(2)尺骨骨折・橈骨骨折

(3)肘関節脱臼

(4)上腕神経叢麻痺

3 腕の後遺障害等級

(1)痛みが残った場合

(2)関節が動きにくくなった場合

 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

(3)変形してしまった場合

(4)関節が異常に動くようになった場合

4 まとめ



本文

1 腕の構造

 腕は,上腕骨,尺骨,橈骨からなり,肘関節を構成しています。上腕骨の近位端(体の中心に近い側)は肩甲骨と肩関節を構成しており,遠位端(体の中心から遠い側)の上腕骨滑車・上腕骨小頭で尺骨・橈骨と接続し,肘関節を構成しています。肘関節は可動範囲が広いですが,蝶番のような構造をしておりかみ合わせがよいため,安定性も高い関節です。とはいえ,交通事故では転倒時に手をつくなどして強い力が加わることも多く,肘関節を脱臼してしまう例もあります。
 また,腕には脊髄から伸びる腕神経叢という神経群に由来する正中神経,尺骨神経,橈骨神経という径の大きな神経が通っていることも特徴的ですが,これらの神経の損傷による影響は腕というよりは主に手指に現れます。



2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

 以下では,腕に関する怪我で,後遺障害等級が認定されやすい傷病について,その概要をご説明いたします。



(1)上腕骨骨折

 骨折の部位によって,上腕骨近位端骨折,上腕骨骨幹部骨折(骨幹部とは骨の中央部分のことです),上腕骨遠位端骨折に分類されます。
 関節に近い近位端骨折や遠位端骨折は可動域制限を生じることがあり,可動域の制限の程度によっては後遺障害と認められることがあります。
 骨幹部の骨折であっても,変形癒合(癒合とは骨がくっつくことです。)をした場合や偽関節(十分に癒合せず関節でないのに可動性が残ることです。)が残る可能性があり,これも程度によって後遺障害と認められることがあります。
 治療はギプス等で固定する保存療法によることが多いですが,転位(骨のずれ)が大きい場合,関節部分の骨折である場合,複数骨折(骨折により3つ以上の骨片に分離した状態)の場合などは,手術をして髄内釘やプレートにより固定する必要があることもあります。



(2)尺骨骨折・橈骨骨折

 前腕を構成する2つの骨のうち,小指側の骨が尺骨で,親指側の骨が橈骨です。同時に両方を骨折してしまうことも多いです。尺骨と橈骨の長さが不均衡な状態で骨癒合すると手首の関節に痛みが生じることもあります。一般に骨癒合に時間がかかる部位といわれています。
 骨折部位ごとに分類がされる点,可動域制限や変形癒合,偽関節が生じた場合に程度により後遺障害が認定される可能性がある点は,上腕骨骨折と同様です。



(3)肘関節脱臼

 外傷性の脱臼では,肘関節は肩関節に次いで脱臼しやすい関節です。関節が不安定なわけではなく,力がかかりやすい部位であるためですね。
 転倒時に手をついて脱臼することが多く,その場合は尺骨が上腕骨の後ろに抜ける後方脱臼となります。これに対し,肘を曲げた状態で肘をぶつけると前方脱臼が生じやすく,前方脱臼をするとほとんどの場合で肘頭骨折も生じます。
 脱臼した際に靱帯を損傷したり骨折したりしてしまうと,骨癒合がうまくいかず,動揺関節(関節が不安定になり異常に可動してしまう状態)や可動域制限が残ることがあり,それらの程度によっては後遺障害と認められることがあります。



(4)上腕神経叢麻痺

 上腕神経叢麻痺は,頸椎の末梢神経,神経根を損傷することにより生じるものですが,肘に症状が現れることがあります。上腕神経叢とは,頚髄から伸びている5本の神経が複雑に交差している構造を指します。このうち,肘の屈曲運動を支配しているのはC6頚髄神経,肘の伸展運動を支配しているのはC7頚髄神経です。
 損傷の態様としては,脊髄から神経根が引き抜かれてしまった場合や,神経が断裂した場合,軸索(神経の興奮の伝達を担う神経細胞の突起)が損傷した場合などがあり得ます。C6頚髄神経あるいはC7頚髄神経を損傷すると,肘が麻痺して屈曲・伸展の動きができなくなります。通常,C6頚髄神経やC7頚髄神経を損傷するときはC5頚髄神経という肩を支配する神経も損傷しており,方にも麻痺が生じています。軸索の損傷にとどまる場合は自然治癒するため後遺障害にはなりませんが,神経根の引き抜きや神経の断裂が生じた場合には麻痺が残存し,後遺障害と認められることがあります。
 自然回復がある程度期待できる場合は,理学療法や内服治療が中心となりますが,自然回復が期待できない場合は,上腕神経叢を展開して再建する神経移植術,肋間神経や副神経の移行術,神経の回復が望めない場合には大胸筋や広背筋の移行術といった手術が行われることもあります。
 骨折や脱臼に比べると,一般に神経の損傷は立証が難しいですが,神経根引き抜きの場合はCTミエログラフィー検査で比較的容易に立証が可能で,神経の断裂の場合も神経根造影検査や自律神経機能検査,針筋電図検査などの各種検査で立証することが可能です。



3 腕の後遺障害等級

 後遺障害等級は重い方から1級~14級に区分されています。もっとも,後遺障害等級は認定されること自体のハードルが高く,14級であっても決して症状が軽いというわけでもありません。
 具体的な症状により変動することはあるものの,等級ごとに慰謝料の金額や労働能力喪失率が目安として決められています。慰謝料は,自賠責基準,任意保険基準,裁判基準の3つがあり,弁護士に依頼することで最も高額となる裁判基準をベースとすることができるようになります。労働能力喪失率とは,後遺障害によって労働能力が制限されることにより将来の収入が減ってしまうという損害(逸失利益といいます。)を算定する際に用いる数値で,どの程度の労働能力が失われたのかを割合で示すものになります。
 以下では,残存した症状ごとに何級が認定され得るかをみていきます。



(1)痛みが残った場合

 治療によっても痛みが残ってしまった場合は,神経症状が残ったということで,下記の後遺障害が認定される可能性があります。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 14級9号 局部に神経症状を残すもの  32万円  40万円  110万円  5%
 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%


 14級と12級の後遺障害の内容はよく似ていますね。
 痛み(神経症状)の後遺症が12級と認定されるのは,レントゲン写真・CT写真・脳波検査・脳血管写・気脳写・筋電図等の検査によって医学的に証明できる場合とされています。
 これに対し,14級と認定されるのは,医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応医学的に説明のつくものであり、賠償性神経症や故意に誇張された訴えではないと判断される場合とされています。
 後遺障害は治療によっても治らなかった症状ですから,後遺障害がその後よくなるということは想定されず,基本的に労働能力は就労可能年数(原則67歳までの期間)の間ずっと失われるものとして逸失利益が計算されます。しかし,神経症状に関する後遺障害については,経験則上,疼痛への馴化(痛みに慣れること)や経年による軽快があり得ることなどを理由に労働能力喪失期間が制限されやすい傾向にあります。具体的には14級9号については5年以内,12級13号については10年以内に制限される傾向にあります。もっとも,骨折による変形癒合が疼痛の原因となっていると考えられる場合など,器質的な原因が認められる場合には,より長期の喪失期間が認められやすいです。



(2)関節が動きにくくなった場合

 リハビリをしても関節の動きが十分に回復しない場合があります。そのような場合,関節可動域に制限が生じたということで,下記の後遺障害と認定される可能性があります(6級,5級,1級は肩関節や手首の関節にも可動域制限を要します。)。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの  187万円  200万円  550万円  27%
 8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの  324万円  400万円  830万円  45%
 6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの  498万円  600万円  1180万円  67%
 5級6号 1上肢の用を廃したもの  599万円  700万円  1400万円  79%
 1級4号 両上肢の用を廃したもの  1100万円  1300万円  2800万円  100%


 関節の機能障害は,怪我をしていない側(健側といいます)の可動域の合計値と比較してどの程度可動域が制限されているかにより等級が定まります。
 両側に可動域制限が生じた場合など,健側と比較するのが適当でない場合は参考可動域と比較して可動域制限の程度が判断されます。また,原則として他動値(外的な力で動かせる範囲)を用いますが,麻痺や痛みによる可動域制限の場合は外的な力では動かせてしまい適当でないため自動値(自力で動かせる範囲)を用います。
 可動域は,角度計を用いて日整会方式という方式により測定することが通常ですが,整形外科医によっては適切な方法によらず測定されてしまうこともあるので,注意が必要です。
 肘の参考可動域は下記のとおりです。参考可動域の3/4,1/2,1/10にあたる値も便宜上記載しています。可動域は5度きざみで計測するため,それぞれ繰り上げされた数値となっています。



主要運動
 屈曲  伸展  合計
 参考可動域  145°  5°  150°
 3/4  110°  5°  115°
 1/2  75°  5°  80°
 1/10  15°  5°  20°


 以下では,上の表を参照しながらどの程度の制限があれば何級が認定されるのかを具体的にみていきます。



 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 「関節の機能に障害を残す」とは,主要運動の可動域の合計値が4分の3以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では115°以下となっていれば該当するということですね。



 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 「関節の機能に著しい障害を残す」とは,主要運動の可動域の合計値が2分の1以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では80°以下となっていれば該当するということですね。



 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 「関節の用を廃した」とは,①関節の強直またはこれに近い状態にあるもの,②神経麻痺等により自動運動不能またはこれに近い状態であるもの,③人工関節を挿入してもなお可動域が2分の1に制限されたもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 関節可動域は他動運動(外的な力で動かすこと)により測定するのが原則ですが,麻痺による可動域制限の場合は適当ではないので,自動運動(自力で動かすこと)により測定します。
 強直とは全く動かないことで,強直に近い状態とは可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。自動運動不能とは自力では全く動かせないことで,自動運動不能に近い状態というのは自力で動かせる可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。参考可動域の1/10については上の表でご確認ください。



 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

 「上肢の用を廃したもの」とは,①3大関節(肩・ひじ・手首)のすべてが全く可動しないか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,②3大関節が完全に麻痺したか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 なお,「手指の全部の用を廃した」とは,①手指の末節骨の半分以上を失ったもの,②中手指節関節もしくは近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すもの,のいずれかに当たる場合をいいます。



(3)変形してしまった場合

 前述のとおり,骨折の箇所や態様によっては骨が正常に癒合せず,変形癒合してしまったり,偽関節になってしまうことがあります。
 上腕骨や尺骨,橈骨のような細長い大きな骨は長管骨と呼ばれ,本来はまっすぐですが,変形癒合により15°以上の屈曲変形が生じた場合には長管骨の変形障害として下記の表のとおり後遺障害12級と認定されます。屈曲変形だけでなく,骨端部を欠損した場合や骨の直径が減じた場合なども同様に12級と認定されることがあります。
 偽関節が残った場合,異常可動性のために硬性補装具(プラスチックや金属でできた固定のための装具)が常時必要な場合には7級,物を保持したり移動するときに硬性補装具を必要とすることがある場合には8級,硬性補装具を必要としない場合は長管骨の変形として扱われ12級がそれぞれ認定されます。尺骨や橈骨の一方のみに偽関節が残った場合は,正常な方の骨で支えることができるため硬性補装具が不要な場合が多いですね。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級8号 長管骨に変形を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 8級8号 1上肢に偽関節を残すもの  324万円  400万円  830万円  45%
 7級9号 1上肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの  409万円  500万円  1000万円  56%


(4)関節が異常に動くようになった場合

 関節の安定性が損なわれることで,可動域制限とは逆に,本来動かない方向に可動するようになったり,本来以上に可動するようになることがあります。このような異常な関節運動が生じている関節を動揺関節といいます。
 動揺関節の存在は診断書の記載のみでは立証不十分で,XPストレス撮影(負荷をかけて亜脱臼状態になった状態を撮影)が必要になります。
 労働に多少の支障があっても硬性補装具の装着を常時必要としない場合は12級,労働に支障があり常時硬性補装具の装着を必要とする場合は10級とそれぞれ認定されます。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの  187万円  200万円  550万円  27%


4 まとめ

 一口に腕の後遺障害といっても,傷病名,症状,等級はさまざまです。等級認定は細かく基準化されていますが,等級認定の基準に詳しい医師はほとんどいないため,後遺障害診断書の作成を漫然と医師任せにしてしまうと不十分な内容となり,症状に見合う後遺障害等級を獲得できないおそれがあります。
 また,慰謝料は自賠責基準,任意保険基準,裁判基準のなかで裁判基準が突出して高額ですが,裁判基準をベースに加害者の保険会社と交渉するためには弁護士に依頼する必要があります。逸失利益についても喪失率が争いになりやすく,十分な知識と交渉力がなければ十分な賠償を受けられません。
 このように,後遺障害等級認定の可能性がある事案では,後遺障害に精通した交渉力の強い弁護士に依頼するメリットが非常に大きいといえます。

 H&パートナーズ法律事務所では,後遺障害等級申請や交渉についての経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。ご依頼者様から丁寧にお話を伺いながら交渉を進めて参りますので,ご安心して無料相談にお越しください。なお,当事務所は兵庫県川西市,梅田,高槻に拠点を有しておりますが,遠方の方はもちろん,関西近辺でも,ご来所が難しい方には出張相談を行います。その点もお気軽にお問い合わせください。

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