交通事故コラムcolumn

  • 2020.01.10

肩の後遺障害にはどんなものがある?認定される等級や認定のポイント

 肩周辺は,肩の関節の安定性が悪いため脱臼しやすく,鎖骨も骨折しやすい骨であるなど,怪我をしやすい部位です。治療が終わっても動かしにくさや痛みが残ってしまうこともあり,程度によっては後遺障害と認定を受けられる可能性があります。後遺障害の認定を受けられると受け取れる賠償額が大幅に増額します。ここでは,肩周辺の怪我について,後遺障害認定の基準や慰謝料の相場について,弁護士がご説明いたします。

 



目次

1 肩部の構造

2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

(1)鎖骨骨折

(2)肩関節脱臼

(3)肩鎖関節脱臼

(4)腱板断裂

(5)上腕神経叢麻痺

3 肩部の後遺障害等級

(1)痛みが残った場合

(2)動きにくくなった場合

 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

(3)変形してしまった場合

(4)脱臼しやすくなってしまった場合

4 まとめ



本文

1 肩部の構造

 肩関節は,鎖骨,上腕骨,肩甲骨から構成されています。肩甲骨の皿のようにくぼんだ部分である関節窩が,上腕骨の関節部分である上腕骨頭を受け止め,肩関節を形成しています。また,肩の出っ張った部分を肩峰(けんぽう)といい,鎖骨とともに肩鎖関節(けんさかんせつ)を形成しています。
 ティーに乗ったゴルフボールに例えられる構造をもつ肩関節ですが,その構造から,大きな可動域があるものの安定性が悪い関節で,関節上腕靱帯や腱板(肩甲下筋腱、棘上筋腱、棘下筋腱、小円筋腱という4つの腱からなります),三角筋などにより安定性が維持されてはいるものの,一般に脱臼しやすい関節です。



2 後遺障害等級のつきやすい傷病名

 以下では,肩に関する怪我で,後遺障害等級が認定されやすい傷病について,その概要をご説明いたします。



(1)鎖骨骨折

 鎖骨は骨折しやすい骨で,交通事故による全骨折中,最も高頻度で発生しています。鎖骨は,胸鎖乳突筋により上方に引っ張られているため,骨折部の内側は上方にずれます(転位といいます。)。
 固定をして自然に癒合するのを待つ保存療法が一般的ですが,転位により変形癒合しやすく,変形癒合の程度によっては後遺障害と認められます。
 また,骨折部位が肩鎖関節に近い場合は,鎖骨遠位端骨折という診断名になり,肩関節の可動域に制限が残る可能性があります。可動域制限の程度によっては,後遺障害と認められます。
 神経叢麻痺(後述します。)を合併している場合や,複数骨折(骨折により3つ以上の骨片に分離した状態)の場合,転位が大きい場合や開放骨折の場合などには手術が行われ,AOプレート(ねじとプレートで折れた骨をつなげる方法)やキルシュナー鋼線(ステンレス製のピンを骨に押し込み固定する方法)を用いて鎖骨を固定します。



(2)肩関節脱臼

 肩関節は,前述のとおり不安定な構造をしているため,脱臼しやすい関節です。脱臼とは,外力により関節を構成する骨同士の間接面が正しい位置関係を失っている状態をいい,外傷性脱臼の約半数は肩関節脱臼といわれています。
 関節唇(関節の土手となっている部分)や関節包(関節を囲む袋状の被膜),関節を構成する骨の損傷を伴うことも多く,痛みや変形,可動域制限が残ると,程度に応じて後遺障害と認定され得ます。また,脱臼しやすい状態になると,習慣性脱臼として後遺障害が認定されることもあります。
 通常は保存療法(手術を伴わない治療)によることになりますが,程度によっては観血的治療(手術を伴う治療)を要することもあります。



(3)肩鎖関節脱臼

 肩鎖関節は関節面が凹凸構造になっておらず,専ら肩鎖靱帯と烏口鎖骨靱帯という靱帯により支えられています。そのため,肩鎖関節脱臼には肩鎖靱帯や烏口鎖骨靱帯の断裂を伴うことが多いという特徴があります。痛みや変形,可動域制限が残ると,程度に応じて後遺障害と認定され得ます。
 通常は保存療法によることになりますが,程度によっては観血的治療を要することもあります。



(4)腱板断裂

 腱板とは,肩甲下筋腱、棘上筋腱、棘下筋腱、小円筋腱という4つの腱から構成されており,腱板断裂とはこれらの腱に部分断裂や完全断裂を生じることですが,最も断裂しやすいのは棘上筋腱です。腱板を損傷すると自力で腕を上げるのが困難になります。
 部分断裂の場合,薬の内服・外用,ステロイド・ヒアルロン酸の関節内注入,可動域訓練・筋力強化などの保存療法によることが多いです。痛みや可動域制限が著しい場合には観血的治療も行われます。
 痛みや可動域制限が残ってしまうことも多く,程度により後遺障害等級が認定され得ます。



(5)上腕神経叢麻痺

 上腕神経叢麻痺は,頸椎の末梢神経,神経根を損傷することにより生じるものですが,肩に症状が現れることがあります。上腕神経叢とは,頚髄から伸びている5本の神経が複雑に交差している構造を指します。このうち,肩の運動を支配しているのはC5頚髄神経と呼ばれる神経です。
 損傷の態様としては,脊髄から神経根が引き抜かれてしまった場合や,神経が断裂した場合,軸索(神経の興奮の伝達を担う神経細胞の突起)が損傷した場合などがあり得ます。C5頚髄神経を損傷すると,肩が麻痺して動かすことができなくなります。軸索の損傷にとどまる場合は自然治癒するため後遺障害にはなりませんが,神経根の引き抜きや神経の断裂が生じた場合には麻痺が残存し,後遺障害と認められることがあります。
 自然回復がある程度期待できる場合は,理学療法や内服治療が中心となりますが,自然回復が期待できない場合は,神経移植術や肩関節固定術,多数筋移行術といった手術が行われることもあります。
 骨折や脱臼に比べると,一般に神経の損傷は立証が難しいですが,神経根引き抜きの場合はCTミエログラフィー検査で比較的容易に立証が可能で,神経の断裂の場合も神経根造影検査や自律神経機能検査,針筋電図検査などの各種検査で立証することが可能です。



3 肩部の後遺障害等級

 後遺障害等級は重い方から1級~14級に区分されています。もっとも,後遺障害等級は認定されること自体のハードルが高く,14級であっても決して症状が軽いというわけでもありません。
 具体的な症状により変動することはあるものの,等級ごとに慰謝料の金額や労働能力喪失率が目安として決められています。慰謝料は,自賠責基準,任意保険基準,裁判基準の3つがあり,弁護士に依頼することで最も高額となる裁判基準をベースとすることができるようになります。労働能力喪失率とは,後遺障害によって労働能力が制限されることにより将来の収入が減ってしまうという損害(逸失利益といいます。)を算定する際に用いる数値で,どの程度の労働能力が失われたのかを割合で示すものになります。
 以下では,残存した症状ごとに何級が認定され得るかをみていきます。



(1)痛みが残った場合

 治療によっても痛みが残ってしまった場合は,神経症状が残ったということで,下記の後遺障害が認定される可能性があります。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 14級9号 局部に神経症状を残すもの  32万円  40万円  110万円  5%
 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%


 14級と12級の後遺障害の内容はよく似ていますね。
 痛み(神経症状)の後遺症が12級と認定されるのは,レントゲン写真・CT写真・脳波検査・脳血管写・気脳写・筋電図等の検査によって医学的に証明できる場合とされています。
 これに対し,14級と認定されるのは,医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応医学的に説明のつくものであり、賠償性神経症や故意に誇張された訴えではないと判断される場合とされています。
 後遺障害は治療によっても治らなかった症状ですから,後遺障害がその後よくなるということは想定されず,基本的に労働能力は就労可能年数(原則67歳までの期間)の間ずっと失われるものとして逸失利益が計算されます。しかし,神経症状に関する後遺障害については,経験則上,疼痛への馴化(痛みに慣れること)や経年による軽快があり得ることなどを理由に労働能力喪失期間が制限されやすい傾向にあります。具体的には14級9号については5年以内,12級13号については10年以内に制限される傾向にあります。もっとも,骨折による変形癒合が疼痛の原因となっていると考えられる場合など,器質的な原因が認められる場合には,より長期の喪失期間が認められやすいです。



(2)動きにくくなった場合

 リハビリをしても関節の動きが十分に回復しない場合があります。そのような場合,関節可動域に制限が生じたということで,下記の後遺障害と認定される可能性があります(6級,5級,1級は肘関節や手首の関節にも可動域制限を要します。)。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級6号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%
 10級10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの  187万円  200万円  550万円  27%
 8級6号 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの  324万円  400万円  830万円  45%
 6級6号 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの  498万円  600万円  1180万円  67%
 5級6号 1上肢の用を廃したもの  599万円  700万円  1400万円  79%
 1級4号 両上肢の用を廃したもの  1100万円  1300万円  2800万円  100%


 関節の機能障害は,怪我をしていない側(健側といいます)の可動域と比較してどの程度可動域が制限されているかにより等級が定まります。
 両側に可動域制限が生じた場合など,健側と比較するのが適当でない場合は参考可動域と比較して可動域制限の程度が判断されます。また,原則として他動値(外的な力で動かせる範囲)を用いますが,麻痺や痛みによる可動域制限の場合は外的な力では動かせてしまい適当でないため自動値(自力で動かせる範囲)を用います。
 可動域は,角度計を用いて日整会方式という方式により測定することが通常ですが,整形外科医によっては適切な方法によらず測定されてしまうこともあるので,注意が必要です。
 肩の参考可動域は下記のとおりです。参考可動域の3/4,1/2,1/10にあたる値も便宜上記載しています。基本的には主要運動の可動域で等級を判断しますが,主要運動の制限が等級評価の基準値をわずかに上回る(10級該当性では10°,12級該当性では5°)場合に,参考運動の1つについて可動域が3/4または1/2以下に制限されていれば上位の等級が認定されます。なお,可動域が1/10に制限された場合は参考運動による繰り上げはないため下記表では省略しています。また,可動域は5度きざみで計測するため,それぞれ繰り上げされた数値となっています。



主要運動 参考運動
 屈曲  外転  内転  合計  伸展  外旋  内旋
 参考可動域  180°  180°  0°  360°  50°  60°  80°
 3/4  135°  135°  0°  270°  40°  45°  60°
 1/2  90°  90°  0°  180°  25°  30°  40°
 1/10  20°  20°  0°  40°


 以下では,上の表を参照しながらどの程度の制限があれば何級が認定されるのかを具体的にみていきます。



 ア 関節の機能に障害を残すもの(12級6号)

 「関節の機能に障害を残す」とは,主要運動の屈曲か内転どちらかの可動域が4分の3以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では135°以下となっていれば該当するということですね。仮に140°までの制限にとどまったとしても,参考運動で3/4の制限が認められれば12級6号が認定されることになります。



 イ 関節の機能に著しい障害を残すもの(10級10号)

 「関節の機能に著しい障害を残す」とは,主要運動の屈曲が内転どちらかの可動域が2分の1以下に制限された場合をいいます。上の表でみると参考可動域との比較では90°以下となっていれば該当するということですね。仮に100°までの制限にとどまったとしても,参考運動で1/2の制限が認められれば10級10号が認定されることになります。



 ウ 関節の用を廃したもの(8級6号,6級6号)

 「関節の用を廃した」とは,①関節の強直またはこれに近い状態にあるもの,②神経麻痺等により自動運動不能またはこれに近い状態であるもの,③人工関節を挿入してもなお可動域が2分の1に制限されたもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 関節可動域は他動運動(外的な力で動かすこと)により測定するのが原則ですが,麻痺による可動域制限の場合は適当ではないので,自動運動(自力で動かすこと)により測定します。
 強直とは全く動かないことで,強直に近い状態とは可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。自動運動不能とは自力では全く動かせないことで,自動運動不能に近い状態というのは自力で動かせる可動域が1/10以下に制限されたものをいいます。参考可動域の1/10については上の表でご確認ください。



 エ 上肢の用を廃したもの(5級6号,1級4号)

 「上肢の用を廃したもの」とは,①3大関節(肩・ひじ・手首)のすべてが全く可動しないか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,②3大関節が完全に麻痺したか,可動域が1/10以下に制限され,手指の全部の用を廃したもの,のいずれかに当たる場合をいいます。
 なお,「手指の全部の用を廃した」とは,①手指の末節骨の半分以上を失ったもの,②中手指節関節もしくは近位指節間関節(親指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すもの,のいずれかに当たる場合をいいます。



(3)変形してしまった場合

 前述のとおり,鎖骨は胸鎖乳突筋により上方に引っ張られているため,保存療法による場合は転位癒合してしまうことがよくあります。レントゲン写真等によればわかるという程度では足りず,裸体になった場合に変形が明らかにわかる程度のものであれば,下記の後遺障害が認定される可能性があります。鎖骨以外にも,胸骨,肋骨,肩甲骨,骨盤骨に変形が残った場合も同様です。



等級 後遺障害の内容 自賠責基準 任意保険基準 裁判基準 喪失率
 12級5号 鎖骨,胸骨,肋骨,肩甲骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの  93万円  100万円  290万円  14%


 注意が必要なのは,鎖骨等の変形障害は労働能力喪失率が争われやすいという点です。モデル等の容姿が重要な職種であれば労働能力を喪失したといいやすいですが,通常は鎖骨等の変形が労働能力に影響を与えるとは考えにくいためです。変形障害のみの場合,喪失率が認められず,逸失利益が請求できないこともあります。
 ただし,変形障害に加えて運動障害(可動域制限)がある場合や,変形障害に加えて痛みがある場合には,それらが別途後遺障害等級に該当する場合でなくとも,10%~14%程度の喪失率が認められる傾向があります。
 変形障害の場合は,運動障害や痛みが併発しているかどうかが逸失利益を請求できるか否かに大きく影響する,といえますね。



(4)脱臼しやすくなってしまった場合

 肩関節は一度脱臼するとくせになりやすい部位です。特に,初回の肩関節脱臼をした際の年齢が若年の場合,反復性脱臼に移行しやすく,10歳代に初回脱臼をした場合は80%~90%が再発するといわれています。脱臼を反復してしまう原因は,脱臼に際して関節包や関節唇といった軟部組織が損傷してしまい,関節が正常な位置に戻っても損傷が完治しにくいためです。
 反復性脱臼は診断書の記載のみでは立証が不十分で,XPストレス撮影(負荷をかけて亜脱臼状態になった状態を撮影)が必要になります。反復性脱臼と認められれば,後遺障害等級12級6号の「上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(既出)と認定されることになります。
 なお,反復性脱臼は,関節鏡視下手術(はがれた関節唇を元の位置に縫い付ける手術)により治ることが多いですが,もちろん治ったのであれば後遺障害としては認定されません。悩ましいですが,手術費を保険会社に負担してもらい無等級となるより,後遺障害等級を確定して示談を済ませてから健康保険を利用して手術をする方が,経済的にプラスになることが多いだろうと思われます。



4 まとめ

 一口に肩の後遺障害といっても,傷病名,症状,等級はさまざまです。等級認定は細かく基準化されていますが,等級認定の基準に詳しい医師はほとんどいないため,後遺障害診断書の作成を漫然と医師任せにしてしまうと不十分な内容となり,症状に見合う後遺障害等級を獲得できないおそれがあります。
 また,慰謝料は自賠責基準,任意保険基準,裁判基準のなかで裁判基準が突出して高額ですが,裁判基準をベースに加害者の保険会社と交渉するためには弁護士に依頼する必要があります。逸失利益についても喪失率が争いになりやすく,十分な知識と交渉力がなければ十分な賠償を受けられません。
 このように,後遺障害等級認定の可能性がある事案では,後遺障害に精通した交渉力の強い弁護士に依頼するメリットが非常に大きいといえます。

 H&パートナーズ法律事務所では,後遺障害等級申請や交渉についての経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。ご依頼者様から丁寧にお話を伺いながら交渉を進めて参りますので,ご安心して無料相談にお越しください。なお,当事務所は兵庫県川西市,梅田,高槻に拠点を有しておりますが,遠方の方はもちろん,関西近辺でも,ご来所が難しい方には出張相談を行います。その点もお気軽にお問い合わせください。

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