交通事故コラムcolumn

  • 2019.09.24

後遺障害が認定された場合や死亡事故の場合に,慰謝料とは別にもらえる逸失利益とは?

 後遺障害が認定された場合や,死亡事故の場合には,慰謝料とは別に逸失利益を受け取れる場合があります。逸失利益とは,将来得られるはずであったのに事故によって得られなくなった収入を損害としてみるものですが,逸失利益がどのように計算されるのか,被害者の年齢や職種ごとに整理して,弁護士がご説明します。

 



目次

1 逸失利益とは

2 逸失利益の計算方法

3 基礎収入

4 労働能力喪失率

5 労働能力喪失期間・就労可能年数

6 ライプニッツ係数

7 生活費控除率

8 逸失利益算定の具体例

9 まとめ



本文

1 逸失利益とは

 交通事故により負った傷害が治癒せず,症状固定(治療を続けても大きな改善が見込めなくなったこと)後,後遺障害が残ってしまった場合や,死亡事故の場合,後遺障害の残存や死亡についての精神的損害を填補する役割を果たすのが慰謝料です。
 しかし,後遺障害が残存したり死亡してしまった場合には,当然ながら損害は精神的なものにとどまりません。将来得ることができたはずの収入が,後遺障害により減ってしまったり,死亡の場合は全く得られなくなってしまいます。
 このような減収は,逸失利益と呼ばれ,賠償の対象となる損害に含まれます。後遺障害が認定された場合や死亡事故の場合,症状固定もしくは死亡後の賠償は,慰謝料と逸失利益の2種類あることになります。



2 逸失利益の計算方法

後遺障害の場合と死亡の場合で,逸失利益の計算方法は若干異なります。
後遺障害逸失利益は,
 基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
という計算式により算出され,
死亡逸失利益は,
 基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
という計算式で算出されます。
各用語については項を改めてご説明します。



3 基礎収入

 基礎収入とは,収入減額の基準となる年収で,基本的には交通事故による受傷前の現実の収入を基準として算出します。
 将来の収入の減額を問題としているのに,事故前の収入を基準にするのは違和感があるかもしれません。しかし,給与所得者の場合でも昇給が確実ではなかったり増額幅が小さいことがある反面,解雇や転職の可能性もあるなど,将来の収入の変動については不確定要素が多くあり,事故前の現実の収入を基準とすることには一定の合理性があります。とはいえ,就業規則等により昇給が確実といえる場合などには,昇給を考慮して基礎収入を認定した裁判例もあります。
 以下では,職種や年齢ごとに基礎収入の算定の仕方をみていきます。なお,下記でいう平均賃金とは,厚労省が性別,年齢,学歴などの労働者の属性別に賃金を調査した結果をまとめた「賃金センサス」に基づくものです。

(1)給与所得者
 原則として事故前の現実の収入(年収)を基礎収入とします。収入には,本給だけでなく歩合給、各種手当、賞与が含まれます。税金や社会保険料を控除する前の額面金額が基礎となります。
 収入を証明する資料は,源泉徴収票です。課税証明書や納税証明書が必要になることもあります。
 現実の収入が平均賃金を下回る場合でも,当該収入であった事情(転職間もないなど)や昇給の具体的可能性の程度によっては,平均賃金を参考にした基礎収入が認定されることもあります。
 また,若年者(事故当時概ね30歳未満)の場合,現実の収入が低くても,平均賃金が基準とされます。これは後述するように,学生の場合は平均賃金が基準となるところ,若年者が事故当時にたまたま就職をしていたことにより,学生より低い基礎収入とされてしまうことは均衡を失すると考えられるためです。

(2)事業所得者
 原則として事故前年の確定申告所得を基礎収入とします。
 毎年の所得に変動が大きい場合には,事故前年分だけでなく事故前数年分の確定申告書を用いて算定することもあります。
 良し悪しは別として,事業所得者の方で,収入を過少に申告したり,経費を水増しすることで,税金を安く抑えておられる方もいらっしゃると思います。その場合は,会計帳簿やその裏付けとなる伝票類等により実際の収入を証明する余地もありますが,確定申告書の記載と異なる収入を認めてもらうのはかなりハードルが高いと考えておくべきです。
 申告所得が平均賃金より少なかったり,赤字申告や無申告の場合でも,将来的に平均賃金を得られる可能性が高いといえる場合には,平均賃金による基礎収入の認定がされることがあります。可能性の程度は,年齢,学歴,職種や独立開業からの期間など様々な具体的事情を考慮のうえ認定されます。
 また,個人事業主の場合,ご家族が事業を補助していることもよくありますが,そのような場合には,所得全額が事業所得者の収入とされるのではなく,所得に占める個人事業者の寄与分のみが基礎収入になります。

(3)会社役員
 一般に,役員報酬は労働の対価に当たる部分と利益配当に当たる部分に分けられます。逸失利益は労働能力の喪失に応じて減額する収入に対応するものですから,労働能力と関係のない利益配当部分は基礎収入に算入されず,労務対価部分のみが基礎収入になります。
 とはいえ,実際には労務対価部分と利益配当部分が峻別されていることは多くないため,実際に担っている労務の内容や事故後の減収の程度,会社の減収の程度などを勘案して,役員報酬から割合的に労務対価部分が認定されます。

(4)家事従事者
 家事従事者とは,家の中で家事を主として担っている人のことをいいます。ただし,1人暮らしをしている人は含まれませんので,注意が必要です。
 家事従事者については,全年齢女性の平均賃金が基礎収入とされます。
 兼業主婦の方は,給与所得者等として算定される基礎収入と,家事従事者として算定される基礎収入のいずれか高い方を基礎収入とします。
 高齢者の場合は,全年齢の平均賃金そのままではなく,全年齢平均賃金を割合的に減じた額や,年齢別平均賃金額を基礎収入とされる傾向があります。
 男性の家事従事者についても家事従事者として基礎収入が算定されますが,男性の平均賃金ではなく,女性の平均賃金を基礎として算定されます。
 家事を分担して行っている場合には,実際に担っている家事の内容に応じて,平均賃金を割合的に減じた額が基礎収入とされることがあります。

(5)学生・生徒・幼児等
 原則として男女別全年齢の平均賃金が基礎収入とされます。大学生や院生については該当する学歴の平均賃金が用いられます。
 高校生以下の場合でも,本人の意思や成績,両親の資力などの事情から,大学進学の可能性が高いと判断される場合には,大卒の平均賃金が用いられることがあります。
 未就労のため,逸失利益を算定するに当たっては就労開始時期を18歳(大卒前提の場合は22歳)として労働能力喪失期間が算出されます。詳しくは後述します。

(6)高齢者
 退職して無職となっていても,就労の意欲及び能力があり就労の蓋然性があったといえれば,男女別年齢別の平均賃金を参考に基礎収入が算定されます。

(7)失業者
 労働能力及び労働意欲があり,就労の蓋然性がある場合には再就職によって得られるであろう収入(原則として失業前の収入を参考とするが,平均賃金が得られる蓋然性があれば男女別の平均賃金を基礎とする。)を基礎収入とします。



4 労働能力喪失率

 労働能力喪失率とは,後遺障害により労働能力がどの程度失われたのかを,割合的に表したものです。
後遺障害等級ごとに以下のとおり参考とすべき割合が示されています。


1級:100% 4級:92% 7級:56% 10級:27% 13級:9%
2級:100% 5級:79% 8級:45% 11級:20% 14級:5%
3級:100% 6級:67% 9級:35% 12級:14%

 上記の割合はそれなりに重視されるものではありますが,職業や年齢,後遺障害の具体的内容,事故前後の稼働状況,生活状況などを考慮して判断されます。後遺障害の類型によっては裁判で激しく争われることもあります(例えば,外貌醜状や歯牙障害,骨の変形障害などは労働能力に影響がない,乏しいと主張されることが多いです。)。



5 労働能力喪失期間・就労可能年数

 労働能力喪失期間とは,労働能力の喪失が影響する期間のことです。後遺障害は治療によっても治癒せずに残った症状のことですので,将来的に治るということは本来的には観念できません。ですので,労働能力喪失期間は原則として就労可能年限(67歳までの期間と平均余命の2分の1のいずれか長い方)までです。
 ただし,治療により大きな改善が見込めないとしても,時間の経過により将来的に症状が改善したり,馴化(痛みなどについて,慣れにより適応できるようになること。)することが類型的に認められる後遺障害については,労働能力喪失期間が制限されることがあります。具体的には非器質性精神障害(PTSDやうつ病),むちうちなどの軽度の神経症状については制限をされる傾向にあります。12級で10年以下,14級で5年以下に制限される例が多いです。
 就労可能年数は死亡の場合に用いられる用語ですが,意味は労働能力喪失期間と違いありません。死亡しているため,就労可能年限までの期間で,基本的に制限されることはありません。



6 ライプニッツ係数

 本来であれば将来の収入は就労している期間に継続的に得ていくものですが,逸失利益として損害賠償を受ける場合,一括して支払いを受けることになります。いわば前払いになるため,利息分を控除しないと利息を二重取りすることになってしまいます。この中間利息を控除するために,労働能力喪失期間(あるいは就労可能年数)の年数を調整することになりますが,そのために使う数字がライプニッツ係数です。年数ごとに数値が決まっているので,労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を確認することになります。
 例えば,労働能力喪失期間が10年だとすると,逸失利益を算定するにあたっては,中間利息を控除するために,10年に対応するライプニッツ係数である7.77217という数字に変換されることになります。
 症状固定時に満18歳以下の被害者の方(大卒前提の場合は満22歳以下)のライプニッツ係数については,症状固定時の年齢から67歳までの期間に対応するライプニッツ係数から18歳(大卒前提の場合は22歳)に達するまでの期間に対応するライプニッツ係数を差し引いて求めます。
 例えば,大学進学が見込まれる16歳の被害者の場合,51年(67歳-16歳)のライプニッツ係数から6年(22歳-16歳)のライプニッツ係数を差し引いた値を用いることになります。



7 生活費控除率

 死亡事故の場合,得られたはずの収入がなくなる一方で,生存していれば生じたはずの生活費はかからなくなります。当然ですが,被害者の方が生存していれば収入の全てが手元に残るわけではなく,何割かが生活費として消費されていたはずです。消費されたはずの生活費を差し引くために一定の割合を乗じる必要があり,その割合を生活費控除率といいます。
 裁判例の中には,植物状態等の重度後遺障害が残った場合にも,健常者よりも生活費がかからないという理由で生活費を控除したものがあるものの,そのような場合でも生活費を控除しない裁判例が多数ですので,基本的には死亡事故の場合にのみ関係する概念と考えておいて問題ありません。
 生活費控除率については,下記のような基準があります。ただし,生活状況や収入,同居人の属性などの具体的事情により変動し得るもので,絶対ではありません。

 ①一家の支柱の場合かつ被扶養者1人の場合:40%
 ②一家の支柱の場合かつ被扶養者2人以上の場合:30%
 ③女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合:30%
 ④男性(独身、幼児等を含む)の場合:50%

 なお,女子年少者については,男女計全年齢の平均賃金を基礎収入とする場合には,生活費控除率を40~45%とされる例が多かったり,兄弟姉妹のみが相続人である場合にはそのことも考慮して生活費控除率が定められるなど,実際にかかる生活費だけを考慮するのでなく,逸失利益総額の調整弁としての役割を担う側面もあるようです。



8 逸失利益算定の具体例

 以上を踏まえて,例として後遺障害が残った場合と死亡事故の場合の逸失利益の計算をしてみます。

 例1)35歳男性,基礎収入400万円,労働能力喪失率14%の場合
  4,000,000×0.14×15.8027(67歳-35歳=32年に対応するライプニッツ係数)
  =8,849,512
  →逸失利益884万9512円

 例2)42歳主婦(平均賃金377万8200円),死亡事故の場合
  3,778,200×(1-0.3)×14.0939(67歳-42歳=25年に対応するライプニッツ係数)
  ≒37,274,701
  →逸失利益3727万4701円



9 まとめ

 後遺障害が認定された場合や,死亡事故の場合,慰謝料についてはある程度定型的に認定がされるので大きな争いになることは少ないです。
 これに対し逸失利益については,計算式があり各項の値により総額が大きく変動するところ,基礎収入や労働能力喪失率,労働能力喪失期間,生活費控除率といった各項のいずれも一義的な基準があるわけではなく,具体的な事情により定まるため,それぞれの項について双方の見解が食い違い,激しい争いになるおそれがあります。
 慰謝料に注意が向きがちかもしれませんが,慰謝料より逸失利益の方が高額になることも多くあり,極めて重要です。考慮要素が多岐に渡り,法律上の論点も存在するため,適切な逸失利益を獲得するためには弁護士へ依頼することが必須といえます。他方で,具体的な事情についてはご依頼者様から聴取する必要があるため,弁護士とご依頼者様のコミュニケーションも非常に重要になります。

 H&パートナーズ法律事務所では,経験豊富な弁護士がご依頼者様から丁寧に事情を聞き取り,実態に即した適切な賠償を獲得できるよう最大限のお力添えをさせていただいております。まずはお気軽に無料相談にお越しいただき,お話しをお聞かせください。なお,当事務所は兵庫県川西市,梅田,高槻に拠点がありますが,遠方の方はもちろん,関西近辺でも,ご来所が難しい方には出張相談を行います。その点もお気軽にお問い合わせください。



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